中小企業経営者の高齢化に伴い、事業承継は重要な課題となっています。
特に、他の業界よりも高齢化が進む不動産業界においては早めに事業承継の手はずを整える必要があるといってよいでしょう。
今回の記事では、親族内承継のメリット・デメリットや円滑に行うためのポイント、親族内に適任者がいない場合の選択肢であるM&Aなどについて解説します。
ぜひ、参考にしてください。
目次
親族内承継とは、家族や親族を事業の後継者として会社経営を承継させる方法のことです。
実施が後継者となるケースが多いですが、配偶者、甥や姪、兄弟姉妹などが事業を継承するケースも少なくありません。
事業規模があまり大きくない会社などではよくみられる事業承継の方法で、経営理念やこれまで蓄積してきたノウハウ、顧客とのつながりをスムーズに継承できるという特徴があります。
親族内承継を行うメリットは以下のとおりです。
それぞれについてみてみましょう。
1つ目のメリットは、顧客や従業員との関係を維持しやすいことです。
これまで会社とかかわりがなかった第三者が会社を承継するのに比べると、現経営者との関係がわかりやすいため、信頼を得られる可能性があります。
親族承継が既定路線となっている企業も少なくないため、承継による人間関係のトラブルを最小限に抑えることができるでしょう。
2つ目のメリットは経営ノウハウや人脈を継承しやすいことです。
後継者の育成は最低でも4〜5年、事業の形態や扱う業種によっては10年近くかかるケースもあります。
親族内継承であれば、早い段階で特定の人物を後継者として育成することができるため、時間をかけて事業を引き継ぐことができるのです。
引き継ぐのは事業そのものだけではありません。
取引先や顧客との人間関係や従業員との関係、金融機関との関係など経営に必要な人脈を引き継ぐことになります。
現経営者が健在なうちに、後継者を内外に公表することで人脈を引き継ぐのが容易になります。
3つ目のメリットは節税対策がしやすいことです。
親族内承継の場合、早い段階で事業を引き継ぐべき親族を決められるため、相続や贈与の計画を立てやすいというメリットがあるのです。
具体的には、贈与税の基礎控除を活用した対策や相続時精算課税制度を活用した対策などが考えられます。
贈与税の基礎控除は1年間で110万円まで認められているため、毎年、110万円以内で会社の株式や資産を後継者に譲渡することで大幅な節税が見込めます。
ただし、毎年同じ金額を贈与していると「連年贈与」とみなされる恐れがあります。
連年贈与とは、複数年にまたがって行われた贈与のことで一連の贈与がまとめて課税対象となる可能性があります。
また、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫に生前贈与できる相続時精算課税制度を活用すると、2,500万円の基礎控除が受けられます。
しかも、基礎控除額以上の贈与については税率が一律で20%となるというメリットもあります。
しかしながら、贈与税の基礎控除を活用する暦年控除と相続時精算課税制度は併用できないため、会社の資産状況などをふまえてどちらかを選択しなければなりません。
親族内承継には、以下のデメリットがあります。
それぞれの内容を見てみましょう。
1番のデメリットは、適任者が親族にいるとは限らないことです。
以前は、中小企業の経営は一種の「家業」のように見なされることが多く、子や孫をはじめとする親族が経営を引き継ぐのが一般的でした。
しかし、親族が経営の引継ぎを希望しないケースや、親族の中に経営者としての能力や適性がある人物がいないこともあります。
親族内承継は、限られた人物の中で後継者選びを行うことになるため、後継者を確保しにくいというデメリットがあるのです。
親族間で経営権の継承や会社資産の継承をめぐるトラブルに発展する可能性があります。
特に、後継者候補が親族内に複数いる場合は誰が経営権を握るかについてもめる可能性があるため、後継者決定を慎重に行わなければなりません。
また、遺産を巡るトラブルに発展する可能性もあるため、生前に遺言書を作成するなどの対策が必要です。
現経営者が、かつて行った借入れへの個人保証も次の経営者が引き継がなければなりませんが、貸し手である金融機関の同意を得られない可能性があります。
借入金額が大きい場合、後継者の個人負担が重くなってしまうため経営の自由度が制限されたり、事業の安定性が損なわれる恐れがあります。
親族内承継を円滑に行うにはどうすればよいのでしょうか。
ここでは、円滑に行うためのポイントを3つ紹介します。
1つ目のポイントは、早めに準備を行うことです。
先ほども述べたように、事業継承には5〜10年という長い期間がかかるため後継者を早めに選定する必要があります。
親族内でトラブルにならないよう、しっかりと話し合う必要もあるためかなり余裕をもって準備をスタートさせるべきでしょう。
特に、社内に複数の親族がいる場合は会社の経営権だけではなく株式などの問題も絡んでくるため、慎重に話を進めなければなりません。
トラブル発生を防ぐためにも、早めに後継者を選定して会社の内外に周知しておく必要があるでしょう。
2つ目のポイントは、後継者が事業継承しやすい体制を整えることです。
会社の現状や、会社で扱っている商品・サービスの内容、会社の財務状況などは早急に引き継いでおかなければなりません。
ただ単に知識を引き継ぐだけではなく、従業員との信頼関係の構築や顧客や仕入れ先、金融機関の担当者との人間関係の構築などのサポートも必要です。
万が一、現経営者が経営に携われなくなっても、すぐに後退できるレベルまで事業内容を引き継ぐのが理想です。
3つ目のポイントは専門家のサポートを受けることです。
事業承継は、会社の事業を引き継ぐだけではなく、財務や相続など様々な要素も引き継がなければなりません。
円滑に引き継ぐには、必要に応じて税理士や会計士、顧問弁護士、行政書士といった専門家のサポートを受ける必要があります。
一朝一夕に事業を後継者に引き継ぐわけではないため、専門家のサポートを受けながら着実に事業を後継者に引き継ぐための準備を行っておきましょう。
親族内承継は中小企業の事業引継ぎとして最もメジャーな形式であり、不動産会社の事業承継のスタイルとしてもよくみられるものです。
しかし、親族内に適任者がいない場合は親族内継承を行うことはできません。
そんなときに検討したいのがM&Aです。
事業承継型のM&Aであれば、従業員の雇用を維持しつつ現経営者が対価を得られる可能性があります。
後継者がいないからといって廃業してしまえば、地域の雇用が失われてしまいます。
後継者難で困っているのであれば、積極的にM&Aの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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